帽子のない水兵

帽子のない水兵 田中貢太郎 まだ横須賀行の汽車が電化しない時のことであった。夕方の六時四十分比ごろ、その汽車が田浦を発車したところで、帽子を冠かぶらない蒼あおい顔をした水兵の一人が、影法師のようにふらふら二等車の方へ入っ […]

葉 太宰治 撰えらばれてあることの 恍惚こうこつと不安と 二つわれにあり ヴェルレエヌ 死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目しまめが […]